DSセミナー報告:「哲学から統計の『意味』を考える」
2025年6月3日、滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター主催による滋賀大DSセミナーにおいて、大塚 淳 先生(滋賀大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授)による講演「哲学から統計の『意味』を考える」が開催されました。
本講演では、統計学やデータサイエンスが科学的・合理的な意思決定の基盤として成立する根拠について、数学的手法そのものではなく、その背後にある哲学的前提から考察するという、学際的かつ根源的な視点が提示されました。
講演では特に、記述統計学・ベイズ統計・因果推論という主要な統計手法がそれぞれ前提としている世界観や認識の枠組みに焦点を当て、存在論・意味論・認識論といった哲学的観点から統計学を再考する内容が展開されました。
なかでも認識論的視点においては、統計学を「科学的仮説を正当化する方法論」と捉えた上で、ベイズ統計と頻度主義統計が、それぞれ内在主義と外在主義という、「そもそも正当化とは何をすることなのか」ということについての異なった見方に根ざすということ、またそうした認識論的特徴が、それぞれの統計的手法が抱える固有の問題点と深く関連していることが議論されました。
さらに講演では、因果推論における「可能世界」の概念など、視点を広げた哲学的枠組みが提示されました。
当日は、学部1年生から4年生、大学院生、そして経済学部・データサイエンス学部の教員など、対面・オンラインを合わせて90名を超える参加者が集まり、講演に熱心に耳を傾けました。質疑応答では、「因果性を理解するための背景知識」「p値の誤用問題」「統計モデルにおける意味」といった鋭い問いが寄せられ、活発な議論が繰り広げられました。
本講演は、データサイエンスを単なる計算技術としてではなく、現実世界への深い理解と信頼に基づいた知識形成の営みとして捉え直す機会となりました。哲学と統計学の接点に光を当てた本講演は、今後の教育・研究活動の基盤を再考するうえで、大きな示唆を与えるものとなりました。
